勝易の二徳2

法然聖人は「念仏には勝易の二徳がある」と、念仏と諸行を対比しつつ、念仏の功徳の超勝性と易行性を示されました。


では、口に称(とな)えるだけの念仏が、なぜ他の諸行よりも勝れているといえるのでしょうか。


それは、称えている私ではなく、称えられている南無阿弥陀仏(なもあみだぶつ)そのものに阿弥陀如来の功徳の一切が具わっているからです。


つまり、念仏の功徳とは、称名念仏という行為ではなく、称えられている名号の功徳に帰されるべきものです。
「名号によってあらゆるものを救う」と誓われた阿弥陀如来の願いの力が具現化したのが「なんまんだぶ」であり、
法然聖人が説かれた「念仏ひとつの救い」とは、名号・願力のうえに、往生のための一切のはたらきが具わっていることを明かされた教えです。


そうはいっても、厳しい修行を成し遂げて戒律を守る僧侶は優れていて、念仏しているだけの僧侶は劣っている……と、普通は考えます。


後輩僧侶Aさんに勧められて『奇跡のリンゴ』という映画を観ました。青森県のリンゴ農家である木村秋則さん実話を映画化した作品です。

三上秋則(阿部サダヲ)はリンゴ農家のひとり娘であった木村美栄子(菅野美穂)と結婚して木村家に婿養子入りました。


ふたりは仲良くリンゴ栽培にいそしんでいたのですが、ある日、美栄子の体に異変が生じます。
なんと、美栄子の体は年に十数回もリンゴの樹に散布する農薬に蝕まれて「農薬アレルギー」になっていたのでした。


秋則は美栄子のために無農薬によるリンゴ栽培を決意します。しかし、リンゴは病気に弱く害虫にも狙われやすいため、無農薬で栽培は絶対に不可能と言われています。


それでも美栄子のためにと、秋則は美栄子の父の支援を受けて無農薬栽培に挑戦します。


農薬の代用品として使ったのは、ワサビをはじめ、酢やコーヒーなど人体に影響がない食品類。調合を変えるなど何百パターンという実験を重ねました。


しかし、結果は連戦連敗。借金ばかりが膨らみ、バイクやトラクターを売却するほど追い詰められます。次第に周囲の農家からも孤立する結果に。


見かねた学生時代からの親友に「もう諦めろ」と咎められると、

「俺が諦めるということは、全人類が諦めるということだ」

と自分の考えを曲げません。


美栄子のために、諦めらずに続けること10年。窮地に追い詰められた中、死を覚悟した秋則が発見したとある方法で遂に悲願は成就され、無農薬の「奇跡のリンゴ」が完成しました。


さて、農薬アレルギーの人は食べられない普通のリンゴと、農薬アレルギーの人もそうでない人も食べられる奇跡のリンゴでは、どちらが勝れているといえるでしょうか。


同じように、一部の凄い人しか成し遂げられない行と、誰でも称えられるお念仏では、どちらが勝れているといえるでしょうか。

行そのものの価値を考えれば、易しい行の方が勝れています。しかし、内実を伺えば行の背景にあるものが凄いのです。
奇跡のリンゴも「妻を救いたい」という願いと、その願いを成就するために命をかけた秋則さんの苦労に報いて完成しました。

同じように「南無阿弥陀仏」のお念仏も、五劫の思惟をめぐらせた「すべての人を救う」という願いと、その願いを成就するための不可思議兆載永劫(ふかしぎちょうさいようごう)のご苦労があって完成しました。
この仏さまのご苦労を聞くのが浄土真宗のお聴聞です。

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2018年05月06日