金戒光明寺


仕事の取材のため、京都市左京区黒谷にある金戒光明寺へ。


このお寺は、親鸞聖人の師匠である法然聖人ゆかりのお寺です。


1175(承安5)年、比叡山の修行を終えた法然聖人(43歳)が、この地の山頂にある石の上で念仏を称えた時に紫雲がたなびき、光明があたりを照らしたという伝承があります。


浄土宗最初のお寺(念仏道場)が開かれた場所であり、浄土宗七大本山のひとつです。


新選組発祥の地としても有名です。


山門にある後小松天皇の直筆による「浄土真宗最初門(法然上人が最初に浄土の教えの真実義を広めた念仏発祥の地の意)」の勅額や、


恵心僧都が最後に彫ったといわれる阿弥陀如来像をはじめ、興味深いものも多くありますが、


特に目をひくのはこちらの「五劫思惟阿弥陀仏(ごこうしゆいあみだぶつ)」。


阿弥陀如来像の異形のひとつで、通常と違って螺髪(らほつ)が頭にかぶさったアフロヘアーのような髪型が特徴です。

『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう)』によりますと、阿弥陀如来が如来(仏)になる前の法蔵菩薩という修行者であったころ、どの仏さまも成し遂げることができなかった“全ての生きとし生けるものを救う仏”になるためにはどうすればいいのか、「五劫を具足し、思惟」された(五劫もの長い間、思いをめぐらした)と説かれています。
劫とはインドで用いられていた時間の単位です。では、一劫とはどれぐらいの長さでしょうか。


劫は、もともと古代インドの神様である梵天(ぼんてん|ブラフマー)の1日の長さ──4億3千2百万年とか43億2千万年とされていました。
仏典では少し考えが違うようで、『雑阿含経(ぞうあごんきょう)』では、ふたつの数え方が紹介されています。


ひとつめが「芥子劫(けしこう)」。まず、1由旬(ゆじゅん)四方ある鉄の城を準備します。
この由旬という単位も「牛車が1日に進む距離」とか「帝王が1日に進軍する距離」とかいわれていて、学説によると4~24kmとさまざまでよく分かってません。とりあえず仮に10kmとします。


10kmというと、東京駅からこの範囲です。中野駅や大森駅、葛西駅などがそのくらいでしょうか。


京都駅を中心にするとこちら。宇治や、滋賀県の大津までが大体10kmくらいあります。


10km四方、さらに高さも10kmの城の中に芥子粒をパンパンに詰め込みます。
芥子粒とはアンパンのうえについていることがある小さなケシの実のことです。

この芥子粒を100年に1回ひと粒だけ城から取り出し、最終的に全部がなくなるくらいの時間をといいます。お経や論によって計算の仕方はいろいろとあるようですが、こちらのサイトによると6,400,000,000,000,000,000,000,000年とのこと。


ふたつめの計算方法が「盤石劫(ばんじゃくこう)」。『雑阿含経(ぞうあごんきょう)』の経説では1由旬……10km四方の大きな岩山があって、とある男がフェルトのような布で100年に1度その岩を払います。
そうして岩山が布との摩擦によって消えるくらいの時間がです。〈参考『岩波仏教辞典』〉


この説明は後に『阿毘達磨大毘婆沙論』や『大智度論』にも伝えられますが、表現に少し変化が見られます。浄土真宗で一般的に用いられる、『安楽集』や『正信偈大意』に示される劫の説明はそれらが出拠でしょう。詳しくは次の通り。

まづ一劫といふは、たかさ四十里ひろさ四十里の石を、天人の羽衣をもつて、そのおもさ、銭一つの四つの字を一つのけて三つの字のおもさなるをきて、三年に一度くだりてこの石をなで尽せるを一劫といふなり。〈蓮如上人『正信偈大意』〉

一里は今の中国では500mだそうです。つまり20km×20km×20kmの石を天人が衣(重さ2g)で3年に1度なでて、石をなで尽くすまでの時間が劫ということです。
こちらも計算すると、4,000,000,000,000,000,000,000,000年とのこと。


要するに劫というのは、永遠といってもいいほど果てしなく永い時間です。
しかも“五”劫なので、5倍。もはや想像することもできません。
ちなみに落語の「寿限無寿限無、五劫のすり切れ」はここからきています。


それだけの永い間、私たちのことをお考えくださった結果、髪の毛が伸びて渦高く螺髪を積み重ねた頭となられた様子を表したのが五劫思惟阿弥陀仏です。


有名な東大寺の勧進所・阿弥陀堂や五劫院にあるものをはじめ、全国でも15~20体ほどしかみられない珍しいお姿です。


金戒光明寺の像は外に安置されているため、いつでもお参りすることができるのも魅力。


ちなみに石でできている五劫思惟阿弥陀仏の像は他にも、北海道小樽市の天上寺や京都百万遍の知恩寺、大阪堺市の興源寺にあります。

合掌

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2017年08月17日