1枚の紙

仏教で大切にされている教えのひとつに「縁起(えんぎ)というものがあります。

現代でも「縁起が良い/悪い」と言いますが、意味合いは大きく異なります。


縁起とは、「縁(よ)って起こること」、「縁って起こっている状態」を指す言葉で、すべてのものはさまざまな条件やきっかけがあって成立していることを示す教えです。
お釈迦さまが見つけた「存在に関する普遍的な原理」といえるでしょう。

この縁起について分かりやすく表したエピソードを紹介します。


現在、欧米でダライ・ラマ氏と同じくらい欧米で尊敬されているベトナム人僧侶のティク・ナット・ハン氏の来日講演。

手元にあった1枚の紙をかざすと、

「この紙の中に雲が見えますか」

と聴衆に対して語りかけるハン氏。


さらに続けて、

「雲がなければ雨は降りません。雨がなければ木は育ちません。木が育たなければ紙はできません。

これが仏教の縁起の教えです」


ハン氏には、『ビーイング・ピース──1枚の紙に雲を見る』という著書もあります。
1枚の紙の中に雄大な雲の流れを見るところから、端的に縁起の教えを説明しています。


これはもちろん紙だけではなく、私たちにも当てはまることです。両親がいて、祖父祖母がいて、さらに曾祖父曾祖母がいて、その前にも……と、私が今ここにいるということは、果てしなく続いてきたいのちの繋がりがあります。


他にも人間であれば単純にタンパク質やカルシウムやリンなど、たくさんの物質によって人体が構成されていることはもちろんですし、
私自身、多くの動物や植物のいのちをいただいて日々を生きており、家族や友人などたくさんの人と関わり合いながら今の自分が成り立ってることも「ってこっている状態」です。


目に見ている部分のいのちだけではなくて、見えない部分のいのちを見通す智慧。
そのことを論理的に説明したのが「縁起」であり、もっと情緒的に語るのであれば「仏さま」であると言えます。


「私は多くのいのちやはたらきによって生かされている」ということは、忙しい日々の中では実感することが難しいかも知れません。


しかし、仏教の教えを通じて、ふとした瞬間に私を囲む多くのご縁に「おかげさま」と感謝できることがあれば、人生に彩りが加えられるのではないでしょうか。

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2017年01月29日