諸行無常

その昔、インドの女性のお話です。

彼女は結婚をして子どもに恵まれ、周囲に祝福され幸せな生活を送っていました。

しかしある日、その子が重い病気に掛かり、亡くなってしまいます。

村の人々が、火葬するために小さな遺体を連れ出そうとしすれば、彼女は半狂乱になってそれを拒みます。我が子を抱えながら「この子を生きかえらせてください」と村中をかけずり回るのですが、死者を生きかえらせることなど誰にも出来ません。

その姿を見かねたある村人が、

「郊外にお釈迦さまという悟りをひらいた凄い方がいらっしゃる。その方ならなんとかしてくださるだろう」

と告げます。彼女は急いでお釈迦さまの元へ向かいました。

お釈迦さまは彼女の悲痛の叫びを聞いて

「それでは、その子を生きかえらせるために、村に帰って村の人たちから芥子の実を三粒ほどもらってきてください」

と、おっしゃいました。
そして、すぐに村に飛んでいこうとする彼女に対して、

「ただし、その芥子の実は、1人も死人を出したことがない家からもらってきてください」

と、一言だけ付け加えられました。

彼女が村の家を回り、

「芥子の実を三粒いただけますか」

と尋ねると、どの家の人もすぐに差し出してくれました。
ですが、

「あなたの家から死人は出ていませんよね」

と聞いてみると、返ってくるのは

「先日、親を亡くしたところです」

「去年、祖父が亡くなりまして」

「兄が死んでます」

という言葉ばかり。

そうして夕暮れまで駆け回っても、1軒として死人を出したことのない家など見つけられませんでした。

そこで彼女は気がついたのです。

「死人を出したことのない家などない、人間は必ず死に、生き返ることはないのだ」

その後、彼女はお釈迦様の弟子となり、仏道を歩むようになりました。

 

このお話はいのちあるものは必ず死に至るのだから、いのちが永遠であると執着してはいけないということを私たちに教えてくれます。
いのちだけでなく、物質的なものも精神的なものも、あらゆるものは変化してやがて消滅していきます。
滅する・死ぬということを感傷的にとらえるのではなくて、物事のそうした本質的な在り方に気づいて、ものが永続すると執着するのを離れよ、と示しているのが【諸行無常】という教えです。

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2017年02月05日