まだまだ肌寒い日が続きますが、春が近づきコブシ(辛夷)の花が境内を彩ります。
「これはなんの木ですか?桜にしてはちょっと花が大きいですね」
と聞かれることもあります。
確かに遠くから見ると桜にも似ています。花を咲かせる季節が桜よりも早いことから、北海道では「ヒキザクラ」「ヤチザクラ」「シキザクラ」とも呼ばれるそうです。
コブシという名前の由来は、「つぼみが子どもの握りこぶしに似ているため」とか、「果実がデコボコのにぎりこぶし状のであるため」とかいわれます。
果実が辛いことから「コブシハジカミ」という古名があるだけでなく、開花と同時に農作業を始める目安となっていたので、「田打ち桜」「種まき桜」という呼び名もあります。
早春に葉より先に白く花が咲き、芳しい香りを漂わせます。花びらは6枚、萼(がく:花びらの付け根にある緑色の小さい葉のようなもの)は3枚。古くから春を告げる花木として親しまれています。
ちなみに浄土真宗にも関係がある花です。というのも、親鸞聖人のお連れ合いである「恵心尼(えしんに)さま」にゆかりがある花とされているからです。
今から約60年前に新潟県上越市板倉区に、「比丘尼(びくに)墓」と呼び伝えられる五輪石塔(五大にかたどった五つの部分からなる塔、平安中期頃から供養塔・墓塔として用いた)が発見されました。
地元では昔から「誰だか分からないけど偉い人のお墓」と伝えられていたようです。
この五重の石塔について、恵心尼さまのお手紙に、
【原文】さて生きて候ふときと思ひ候ひて、五重に候ふ塔の、七尺に候ふ石の塔をあつらへて候へば、このほどは仕いだすべきよし申し候へば
【現代語訳】さて、生きている間にと思って、七尺の五重の石塔を造るように頼んでいたところ、間もなくできあがると知らせがありました〈『恵信尼消息』第8通〉
生前に建てられたお墓(五重に候ふ塔)と記されたのが、そうであろうと考えられるようになりました。
その後、恵信尼さまの廟所として整備が進み、2005年には「ゑしんの里記念館」が建てられました。恵信尼さまのゆかりの地として、毎年6月には法要が行われています。
この「五重に候ふ塔」のそばに樹齢600年のコブシがあったことから、恵信尼さまのゆかりの花といえばコブシの花となったのです。
そのため、西本願寺が販売している仏教婦人会系の商品には、コブシの花があしらわれています。
記事とは関係ありませんが、コブシをインターネットで検索しようとしたら、「こぶしファクトリー」というアイドルグループがたくさんヒットしました。
合掌