思い込み1

「年を取ると記憶力が悪くなる」といわれますが、どうやら科学的には違うようです。
「年を取ると記憶力が悪くなる」と思い込んでいるから、年を取ると記憶力が衰えていくのだそうです。


『The Journals of Gerontology』は、心理学の中でも老年学を中心に取り扱っている専門誌です。


面白い論文があります。被験者は若者と老人が約50名ずつ。

架空の新聞記事を読ませて「年を取ると記憶力が落ちる」と“老化にネガティブイメージを与えたグループ”と、
「年をとっても記憶力は落ちない」と“老化にポジティブイメージを与えたグループ”と、
“老化に何もイメージを与えないグループ”を用意しました。


その後、記憶力テストを実施。結果はハッキリと分かれました。
“老化にポジティブイメージを与えられたグループ”と“老化に何もイメージを与えられていないグループ”は、若者も老人もそこまで大きく数値に開きはなかったにも関わらず、“老化にネガティブなイメージを与えられたグループ”は老人の正答率が大きく下がったのです。


この実験から、高齢者は「年を取ると記憶力が落ちる」といった思い込みを実験前に形成されると、その思い込みに自分自身を合わせてしまうような心的な働きが無意識の内に生じるのではないかと考えられます。
不思議なもので「高齢者は高齢者らしく振る舞おう」と成績を寄せてしまうのです。


「高齢者だからできなくても仕方がない」という言い訳を与えると、本来の能力が発揮できなくなるといいます。人間には無意識の内にサボってしまう心の機能があるのかも知れません。
「高齢者は記憶力が低い」などとステレオタイプという名の言い訳や逃げ口上を持つと、実際のパフォーマンスが下がってしまうのです。
頑張ろうという気力が無意識のうちに削がれてしまったとも考えられます。


というのも、最新の脳科学では健康な70~80代の脳と、20代の脳の脳細胞の数はほとんど同一だといわれます。
個人差はあるものの、身体が健康であれば、脳の機能は老人も若者も変わりません。
さらにいえば、老人の脳でも新しい神経ネットワークが活発に形成されていることも新しく分かってきたといいます。


どうして実際の脳の記憶力は変わらないにも関わらず、年を重ねると記憶力が衰えていくのででしょうか。
それは、「老人になると脳の機能が低下する」という思い込みによって、脳がサボってしまうからです。

自分自身で「老いてるから仕方がない」と思っていると、その思い込みに引っ張られて能力が低下していくのでしょう。


この実験は後に裏付けとなる実験がなされて、再現性が担保されています。


これらの実験から導かれるのは、「人間はステレオタイプを持つと、そこに自分自身を合わせてしまう傾向がある」という事実です。


加齢と記憶力の関係性のだけでなく、他にも人間が「白人と黒人」「男性と女性」といったステレオタイプに合わせてしまう傾向が、多くの実験によって明らかになっています。〈参考『脳がシビれる心理学』〉

合掌

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2018年01月17日