★序文ー証信序「六事成就」③〈処〉
先生|続いて、「この経典がどこで説かれたか」が明らかになっているよ。
【在(ざい)祇樹給孤独園(ぎじゅきっこどくおん)】とあるのが「処成就」だね。
阿弥|どこですか、そこ?
先生|『平家物語』って聞いたことある?
阿弥|小学校の国語の時間に読んだことがあります。
先生|有名な冒頭の部分は記憶にあるかな?
阿弥|えーっと、確か「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声……」でしたっけ?
先生|実はその「祇園精舎」が【祇樹給孤独園】というお寺なんだよ。
阿弥|祇園精舎って実在するお寺のことだったんだ……あ、じゃあそのインドのお寺で『阿弥陀経』が説かれたんですね。
そのお寺って今もあるんですか?
先生|残念ながら、今はもうないんだよ。
歴史公園となっている跡地には今も世界中から仏教徒が訪れているけどね。
阿弥|え~、今はもうないんですか……。
先生|お釈迦さまがいらっしゃった当時のインドは、いくつもの国に分かれていて、その中のコーサラ国の首都の舎衛国(しゃえこく)には、親のない子どもや身寄りのない老人の世話をされていた須達(しゅだつ)という人がいたんだよ。
周りからは「給孤独長者(きっこどくちょうじゃ)」と呼ばれて親しまれていてね。
阿弥|孤児やひとり暮らしのような孤独な人に給仕をするから「給孤独」と呼ばれていたんですね。
長者は「長者番付」って言葉があるくらいですから、お金持ちの資産家ということでしょうか。
先生|正解! その須達がある日、マカダ国の王舎城(おうしゃじょう)というところで偶然お釈迦さまの教えを聞いて、たちまち信者となったんだ。
そこで「ぜひ自分の住んでいる舎衛国にもお招きしたい」と考えたのさ。
阿弥|お釈迦さまって呼んだらすぐ来てくれるんですか?
先生|来てくれるだろうけど……そのためには、お釈迦さまが説法をする道場を準備しないといけないよね。
阿弥|それで作ったのが「祇園精舎」なんですね。
先生|でも道場を作るのには、騒々しい場所ではよくないし、不便なところでは誰も来ないからね。
阿弥|静かで便利なところ……そんなに都合の良い場所があったんですか?
先生|コーサラ国の王子の祇陀太子(ぎだたいし)の持っている林が、静かで人も集まりやすいから最適だということになってね。
須達はそこを分けてもらおうと思って、王子に頼みに行ったんだ。
阿弥|静かで便利な良い場所だったら普通は簡単にもらえないと思いますけど。
先生|最初は王子も譲りたくないから、須達の申し出を断ったんだよ。
阿弥|やっぱり!
先生|でも須達があまりにしつこいから、意地悪を言えば諦めるだろうと、
「じゃあ欲しいと思う土地に金貨を敷き詰めなさい」
と無理難題を出したんだよね。
阿弥|うーん、須達がどれだけお金持ちといっても、さすがに諦めるしかないですね。
先生|ところが須達は何の躊躇もなく財を手放して、見事に欲しい土地全部に金貨を敷きつめたんだよ。
それに驚いた王子が「なんでそこまでして貴方はこの土地が欲しいんだ」と聞くと、須達が事情を話したわけだね。
阿弥|凄い執念……。
先生|その熱意に王子はとても感激して、「貴方がそこまでされるほどに尊いお釈迦さまの教えを聞けるのだったら、私も手伝わせて欲しい」と、土地を渡すと同時にそこに生えていた木を提供して、お寺を建てたというんだよ。
それで祇陀太子の樹木(祇樹)と、須達(給孤独)長者の土地(園)ということで、祇樹給孤独園となったんだ。
阿弥|その人たちがいなかったら『阿弥陀経』は説かれることはなかったし、こうして私が先生からお話を聞くこともなかったのかもしれませんね。