思い込み3

心理学や脳科学関係の本を読んでみると、男女差にまつわる科学的な裏付けがない言説が非常に多いことがわかります。


例えば、「女性は左右の脳をつなぐ脳梁という部分が男性に比べて大きいため、男性に比べて左右の脳の情報交換が盛んである。そのため、女性は男性よりもおしゃべりが好きな傾向がある」と聞いたことはないでしょうか。
これも科学的には十分な論拠がないようです。


まず、脳梁の大きさには男女差がないという報告があります。男女で脳の違いはあるものの、その違いは単純ではありません。
次に、脳梁が大きいと左右の脳で情報のやり取りが活発になるという主張にも根拠はありません。
そして、女性の方がおしゃべりが好きという事実がないことも科学的に分かっているといいます。


2007年に科学最高峰の雑誌『Science』に「女性は本当に男性よりもおしゃべりなのか」というタイトルの論文が掲載されました。


男女それぞれ200人ずつの被験者の会話をランダムにボイスレコーダーで録音。その後、録音音声を分析して英単語がどれだけ使われていたかを計測しました。
女性の方がおしゃべりであれば、ランダムに録音した時は女性の方が会話時間が長くなります。それに比例して単語数は男性よりも増えるはずです。


しかし、結果はご覧の通り。男女の分布に大きな違いがないことがわかります。
女性の方が発話単語数が多いという事実はこのグラフからは見て取れません。おしゃべりの程度には男女差がまったくないことが明らかになったといっていいでしょう。


このように、一見すると科学的根拠があるかのような男女差にまつわる言説は、ほとんどが科学的に否定されています。
しかし、科学的な根拠がないにも関わらず、男女の性差をあえて生み出すような言葉が社会には蔓延しているのも事実です。
「男性はこういうものだ」「女性はこうである」「老人はこうだ」といった主張の多くは、思い込みによって作られた幻なのかも知れません。〈参考『男と女の脳科学』〉


親鸞聖人の尊敬した中国の高僧・曇鸞大師(どんらんだいし)の『往生論註(おうじょうろんちゅう)』という書物の中に

蚕繭(さんけん)の自縛(じばく)するがごとし

という言葉があります。


(かいこ)が自分で吐いた糸で作った繭(まゆ)で自分自身を縛りつけるように、人間も自らの吐いた言葉によって自分たちを縛って苦しめていることを示しています。


科学と仏教の存在意義は異なりますが、通じるところも多いように感じます。

合掌

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2018年01月19日