4月8日は仏教の教えを開かれたお釈迦さまの誕生日です。
「灌仏会(かんぶつえ)」「降誕会(ごうたんえ)」「仏生会(ぶっしょうえ)」など、お釈迦さまのご誕生を祝う仏事にはたくさんの呼び方があります。親しみやすい名前でよく用いられるのは「花まつり」。明治時代に浄土宗で採用されたといいます。
お釈迦さまの誕生時、天から竜がやってきて香湯をそそいだという伝説があります。
日本の花まつりでは、種々の草花で飾った「花御堂(はなみどう)」を作り、中に灌仏桶を置いて甘茶を入れたものがお寺には用意されます。花御堂の中央に安置した誕生仏に、ひしゃくで甘茶をかけるのが慣例です。前述の伝説に由来するもので、宗派は関係なくどのお寺でも行われます。
甘茶は参拝者にふるまわれるだけでなく、甘茶で習字すると上達するとか、害虫よけのまじないとなるとか付加効果があると伝えられているようです。
南アジアでは5月頃に行われるウェーサクが灌仏会に相当します。
〈参考『岩波仏教辞典』〉
お釈迦さまの本名はゴータマ=シッダールタといいます。「釈迦」とは、ゴータマ=シッダールタが所属していた「シャカ族」という種族の名前です。
シャカ族出身の聖者の意味で「釈迦牟尼世尊(しゃかむにせそん)」、略して「釈尊」、親しみを込めて「お釈迦さま」と呼ばれます。
お釈迦さまの母親であるマーヤー夫人は、ある夜ふけに白い象が天から降りてきて自分のお腹に入る夢をみました。
その直後にマーヤー夫人は懐妊されます。
ちなみに白い象は、古代インドの人びとの間で気高いものの象徴となっていました。マーヤー夫人の見た夢は「尊くて清浄なこころの人がこれから世に出ますよ」を暗示していたのです。
花まつりで白い象を設けたり、仏教で白い象がモチーフとなるのは、この話に由来しています。
お釈迦さまのいのちを宿した夫人は、ふつうの妊婦が苦しむ“つわり”をはじめとした負担がまったくありませんでした。花を愛し、鳥のさえずりを愛でる、そんなこころ豊かな毎日を過ごしたといいます。
ルンビニー(ネパール西南部)の花園で、夫人が木の枝に触れようと右手を伸ばしたところ、右脇からお釈迦さまが生まれました。今から約2500年前のことです。
右脇とあるのは、当時の身分制度でお釈迦さまの階級の“クシャトリヤ”を象徴しているといわれます。古代インド聖典『リグ・ヴェーダ』に由来する表現です。
生まれたばかりのお釈迦さまは、まばゆいばかりに輝くだけでなく、七歩歩いて右手を上に挙げて左手を下にさげて「天上天下唯我独尊」とおっしゃったといいます。
生まれてすぐに、「自分は世界中でもっとも尊い人間である」と述べられたお釈迦さまの伝説(『大唐西域記』など)に基づいたエピソードです。
七歩というのは、のちにお釈迦さまが説かれる仏教の教えが六道輪廻の迷いを超えるものであることを表しています。
そもそも新生児が歩いて言葉を発するなんて不可能に思われます。これはお釈迦さまを人を超えた存在と賛美するのと同時に、人間は誰でも独自の尊さをもつことを示しているそうです。
〈中村元・田辺知子『ブッダ物語』〉
今回は花まつりをご縁に、お釈迦さま誕生のさわりを紹介しました。諸説がありますので、興味はある人はぜひ調べてみてください。
合掌