「妙」の字

仏教の各宗において、女性の戒名法名には「妙」の字を用いる習慣があります。


中国の梁の時代(502-557)に宝唱という僧侶が、民衆65名の伝記を集めた『比丘尼伝』という書を著しました。


読み進めると相」「妙音」「妙智」「妙禅」など、女性僧侶の法名には「妙」の字がよく用いられているのが分かります。


また、通俗史書『本朝通紀』前編には「文徳天皇嘉祥三年立花逸勢の女子、落髪して自ら妙沖と名づく」とあります。


他にも、女性僧侶の戒名・法名に「妙」の字を用いる例は多くあります。

しかし、この伝統の理由は分かっていません。出拠も明らかになっていません。


僧侶界はではよく「日蓮宗の風習に倣っている」という説を聞きます。

日蓮宗の依りどころである『法蓮華経』の「妙」の字は、解体すると「少女」となります。この「少女」とは、『妙法蓮華経』提婆達多品で成仏する場面が描かれた8歳の竜女(娑竭羅竜王の娘)をさしているそうです。

また、『妙蓮華経』の「法」の字は、水偏(氵|さんずい)を用いていることから「竜女が南方無垢世界に作仏することをあらわす」として、「女人得脱」の意味となるといいます。

これらの説示を承けて、「女性の戒名・法名には妙の字を用いる」という習慣が生まれた……もっとものようですが、歴史的には後世に生まれた俗説と判断されているようです。


というのも、前述した『比丘尼伝』が書かれたのは、日蓮宗が生まれる700年以上前です。
「女性の戒名・法名に妙の字を用いる」という習慣は大昔からあったのです。

ですから『孝信録』には「妙の字を用ゆること何ぞ日蓮宗に権与すべきや」とあり、『浄土晨鐘』には「妄に男に普、女に妙を分かつものあり、未だ詳かならず」とあります。


では、由来は分からないけれども、伝統に従って女性の法名には「妙」の字を用いた方がいいのでしょうか?

『利井鮮明師語録』には次のようにあります。

女人の法名にはあながちに妙の字がなくとも、釈があればそれでよろしい。
今までの俗姓を転じて釈迦如来の姓をいただき、釈となせば尼の字が女であることを表わすのであるから、妙の字まで強いて書かねばならぬ道理はない。

ちなみに浄土真宗では、1986(昭和61)年から「尼」の字を用いなくなりました。

合掌

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2020年08月26日