『阿弥陀経』を読む3

★『仏説阿弥陀経』の題号について


阿弥|先生、持ってきましたよ。
   法事で私が読んだのはこの本のここからなんですけど……。

先輩|どれどれ……あぁ、やっぱり『阿弥陀経』だったんだね。


   これなら私もよく読んでいるから、内容は大体わかるよ。


阿弥|まず最初に【仏説阿弥陀経(ぶっせつあみだきょう)と書いてあるのは何ですか。

先生|「ぶーっせーつーあーみーだーきょー」とお坊さんがひとりで読むとこだね。
   これは題号(だいごう)とか経題(きょうだい)といって、本のタイトルようなものと考えていいよ。
   最初の【仏説】は「お釈迦さまが説かれた」ということを示しているよ。

阿弥|お釈迦……あっ、そういえばお父さんがこの前「スマホを落として、おシャカにしてしまった」と言ってました。


先生|それは鋳物(いもの)業者の間で、阿弥陀如来像を作ろうとして釈迦如来像を作ってしまった失敗から言い習わされるようになった言葉らしいね。【参考
   お釈迦さまは今から約2500年前、インドに生まれ、悟りを開いて、仏さまと成り、仏教の教えを説かれた方だよ。


   4月8日の誕生日には「花まつり」という仏事があって、花御堂の中に立っている生まれたときのお釈迦さまの仏像に甘茶をかけたりするね。


阿弥|へぇ~、そうなんですか。お釈迦さまってなんとなく聞いたことありますけど、歴史上に実在した人だったんですね。
   そういえば小さい頃、祖母に連れられてお寺に行った記憶がありますよ。
   甘茶って、紅茶みたいなお茶ですよね。
   それを仏像にかけたあとに飲ませてもらったような……あれはお釈迦さまの誕生日をお祝いする行事だったんですね。

先生|その「お釈迦さまが説いてくださったもの」というしるしが「仏説」という言葉だよ。


阿弥|じゃあ「仏説」の次に書いてある「阿弥陀経」はメインタイトルですか?

先生|そういうことになるね。

阿弥|ということは、『仏説阿弥陀経』っていうお経のタイトルはお釈迦さまが付けたんですか?

先生|いや、お経は元々「サンスクリット語」といって、インドの古い言葉で書き残されていたんだよ。
   『阿弥陀経』の原典となっているサンスクリット本の経題は『Sukhāvatīvyūha(スカーヴァティーヴューハ)というそうだからね。


阿弥|スカーヴァ……なんですか?

先生|『スカーヴァティーヴューハ』だよ。日本語に直すと「極楽の荘厳(しょうごん)となるね。

阿弥|「極楽の荘厳」? じゃあ『仏説阿弥陀経』というタイトルはどこからきたんでしょうか?

先生|お経はサンスクリット語で書かれたものが原典だと言ったけど、私たちが読んでいるのはそれを中国語で翻訳したものなんだ。
   だから『仏説阿弥陀経』という経題は、中国で生まれたんだよ。

阿弥|あ、じゃあお経って中国語なんですね! だから読んでも難しいんだ……。

先生|しかも、大昔の中国語だからね。
   私たちがお経を読むのは、外国の人が日本の古文を読むようなものかなぁ。


阿弥|まったく意味が分からないわけですね……。

先生|つまり『仏説阿弥陀経』は、翻訳した人がつけた中国語版の経題だよ。


阿弥|そういえば私が好きな『天使にラブ・ソングを…』っていう昔のアメリカ映画も、原題は『Sister Act』って言うんです。

先生|へぇ、全然違うんだね……でも原題の『シスター・アクト』や、直訳した『修道女の演技』というタイトルだったら、日本ではヒットしなかったかもね。   

阿弥|『スカーヴァティーヴューハ』を『極楽荘厳経』と直訳せずに、『阿弥陀経』というタイトルを付けたのは何か理由があるんでしょうか。

先生|どうだろう……当時の人たちが興味を持ちそうな経題を選んだのかな?
   同じ原典を『称讃浄土仏摂受経(しょうさんじょうどぶつしょうじゅきょう)という経題で翻訳した人や『小無量寿経(しょうむりょうじゅきょう)という経題で翻訳した人もいるからなぁ。


阿弥|ということは、お経のタイトルは翻訳した人のセンスで決まるんですね。

先生|そうかもしれない。
   それに当時は『阿弥陀経』ではなく『無量寿経』と呼ばれることの方が多かったみたい。

阿弥|『阿弥陀経』はどういう意味をもったタイトルなんでしょうか?

先生|単純に考えれば「阿弥陀について説かれたお」ということだろうね。


阿弥|「阿弥陀」ってなんですか?

先生|仏さまの名前だよ。阿弥陀仏とか阿弥陀如来とか聞いたことない?


阿弥|なんとなく聞いたことはある気がしますけど……「あみだくじ」なら小さいとき何度かやりましたよ。

先生|実は「あみだくじ」も阿弥陀仏と関係があるよ。
   この「阿弥陀」という言葉は元々サンスクリット語だったんだ。

阿弥|つまり「阿弥陀」って、昔のインド語を中国語に翻訳したものだったんですね。

先生|ただ、サンスクリット語を中国語に訳す時には、意味で訳すものとで訳すものがあるから注意が必要だよ。


阿弥|……??

先生|ちょっと難しいよね。例えば英語の「catalog」を日本語に訳すとどうなるかな?


阿弥|「説明書」「目録」「案内書」ですかね。

先生|そう、「catalog」を意味で日本語に訳すとそうなるね。

阿弥|じゃあ「catalog」で日本語に訳すとどうなるんですか?

先生|「型録(カタログ)となるよ。つまり、


   こういうことだね。

阿弥|「阿弥陀」はどっちですか?

先生|「阿弥陀」は「Amitābha(アミターバ)「Amitāyus(アミターユス)というサンスクリット語を「音」で訳しているよ。

阿弥|この「阿」「弥」「陀」の漢字には何か意味があるんですか?

先生|当て字だから漢字そのものに意味はないかなぁ。
   「America」を「亜米利加」と書くことがあるけど、別に漢字には意味ないでしょ?


阿弥|そうなんですか……。

先生|どうしたの? 急に元気なくなったけど。

阿弥|お祖母ちゃんが生前に教えてくれたんですけど、実は私の名前はお寺のお坊さんに付けてもらったんです。だから、特に意味はないと言われると残念です。

先生|あぁ、やっぱり阿弥さんの名前の由来は阿弥陀如来に関係していたんだね。
   漢字そのものは確かに当て字かもしれないけど、「阿弥陀」という名前には、とても尊い意味があるんだ。
   それはこれからお経の内容を読んでいると分かるから安心していいよ。


阿弥|そうなんですか、良かった~。

先生|じゃあ次回からさっそく内容に入っていこう。

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2018年09月16日