現代の袈裟は衣の上から着用します。
そのため、着なくても特に生活に支障はありません。どちらかというと装飾的な意味合いが強いです。
しかし、元々は生活や仏道の実践に則した実用性の高い衣服でした。
袈裟の原形は、ご本尊を見るとイメージしやすいです。阿弥陀如来は大きな布を体に巻き付けるようにして身につけています。
こうして見るとマハトマ・ガンディーの衣服や、
インド古来の民族衣装である「サリー」に似ています。
あまり奇抜なデザインにしてしまうと、かえって強い主張や執着が生まれるので、普段着に近いデザインにしたのかも知れません。
ただ、現在のサリーよりも小さめに作られています。
全身を覆うために最低限の大きさを考えた結果でしょう。
簡単な汗取り用の上下に分かれた下着の上から、肌に直接触れるような形で袈裟を着ていたといいます。
古代ギリシャやアフリカなどで見られた1枚布をまとった形式にも似ているのは、熱が籠もらず、暑い地域に適した様式だからです。
インドで修行者が個人の所有として認められていた法衣を「三衣(さんえ)」といいます。文字通り、3枚の布です。
たった3枚しか服を持てないなんて、現代の私たちには考えられません。
しかし、執着の原因となる不必要なものを持たないことは、そのまま「とらわれない」という仏教の理念を実践することに繋がります。
では、どうして2枚でも4枚でもなく3枚だったのでしょうか。
『十誦律(じゅうじゅりつ)』によると、お釈迦さまが毘舎離国(びしゃりこく)へ遊行に出た晩、1枚の衣で過ごしていると寒いと感じたので重ね着をしました。
さらに深夜になると寒さが増したので、もう1枚だけ羽織ると寒さに耐えることができました。
そこで、3枚あれば大体の寒さは凌げるであろうと考えて、衣を3枚まで持つことを許されたといいます。
「三衣」の形や役割はそれぞれ異なっていました。
まず、「安陀会(あんだえ|antarvāsaの音写)」は下着の役割を持つ衣です。腰に着ける腰巻のような肌着なので、響きと意味が近い「アンダーウェア」と覚えると忘れないのではないでしょうか。
僧院の内と外とを問わず、体を洗うとき以外は日常の作業中だけでなく就寝の時もずっと身につけている袈裟です。
三衣の中でもっとも小さいものの、「三輪を覆うを最小とする」と言われるように、腰に巻きつけたときに臍と両膝が覆い隠れるように着ます。
中衣(ちゅうえ)・中宿衣(ちゅうしゅくえ)・内衣(ないえ)・下衣(げえ)とも呼ばれます。
次に、「鬱多羅僧(うったらそう|uttarāsaṅgaの音写)」は上着の役割を持つ衣です。肩から膝にかけて上半身を中心に全身を覆うように着用します。
僧院内での誦経・瞑想・経律の学習や、平生の礼拝・聴講・布薩の時に必ず身に付ける袈裟です。基本的に右肩を顕わにするように着ます(偏袒右肩|へんだんうけん)。
日本の僧侶が着る布袍や黒衣に似ています。入衆衣(にっしゅえ)と呼ばれるほか、上衣(じょうえ)・上著衣(じょうちゃくえ)といった名称があります。
そして、「僧伽梨(そうぎゃり|saṃghāṭiの音写)」はそれらの上に羽織る衣です。普段は着用しません。外出の時は図のように左肩にかけます。
主に僧院・精舎や住居としている森林・洞窟から出て市街や村などの集落へ托鉢に出る時や、王宮に招待された時に着用する袈裟です。説法衣(せっぽうえ)・乞食衣(こつじきえ)・入聚楽衣(にゅうじゅらくえ)ともいいます。外出着・正装といっていいでしょう。
実際に着用する時は、両肩を覆い隠すよう身体にグルッと巻きます(通肩|つうけん)。寒い時にはお釈迦さまがそうであったように防寒着・布団の代わりに用います。
他に重衣(じゅうえ)や大衣(だいえ)と呼ばれ、コートのように用いる袈裟です。他の2枚と違って二重に作られています。
多くの仏像もこの「僧伽梨」を着ています。
袈裟を作るときは縦に短い布きれと長い布きれを縫い合わせ、1本の縦長の布を作ることから始めます。
できあがった1本の縦長の布を「条」といいます。これを横に5本並べると五条衣、7本並べると七条衣となります。
安陀会は五条、鬱多羅僧は七条、僧伽梨は九・十一・十三・十五・十七・十九・二十一・二十三・二十五条で作るようにお釈迦さまは定められました。なぜ奇数なのかは述べられていません。
浄土真宗でも「五条袈裟」や「七条袈裟」を用いますが、インドの袈裟とは役割も形も異なります。
インドから中国・日本へと伝えられた袈裟ですが、インドの温暖な気候とは異なるため、三衣の袈裟を地肌に着るだけでは寒さを凌げません。
そこで、いくつかの下着や衣を着用し、その上から三衣の袈裟をまとうようになりました。
衣類である以上、気候・風土の変化や時代の流れによって移り変わりがあるのは致し方ないことでしょう。
実用性が度外視された結果、重視されるようになったのは装飾性。仏教が貴族や国家権力と密接な関係を持つと、金襴など華美なものが用いられるようなり、現在のような袈裟が誕生しました。
合掌