『阿弥陀経』を読む10

★序文ー証信序「六事成就」⑤〈衆〉


先生|引き続き、お釈迦さまの説法を聞いていた弟子たちの名前が並んでいるよ。

阿弥|最初が【長老舎利弗(ちょうろうしゃりほつ)さんですね。おじいさんだったんですか?

先生|「長老」は単に年長者ということではなくて、徳が高く尊敬するに値する方への尊称だよ。


阿弥|最初に名前があるのはそういう理由だったんですね。

先生|舎利弗は十大弟子として多くの経典に登場しているだけでなく、『阿弥陀経』ではお釈迦さまの説法を聞く対告衆(たいごうしゅう)の代表でとなっているよ。

阿弥|十大弟子?

先生|お釈迦さまのお弟子の中でも、特に中心となった方々だよ。
   舎利弗は智慧第一と呼ばれるほど聡明な方で、お釈迦さまに代わって説法をしたこともあるんだ。


阿弥|智慧第一ということは、智慧第二、智慧第三もいるんですか?

先生|それは聞いたことないなぁ。
   「○○第一」というのは、弟子の特徴的なところや長所を言ってるんだと思うよ。

阿弥|それぞれの良いところをお釈迦さまが褒めて伸ばしてあげていたんですかね。

先生|仏道は他者と比べ合いをして「ナンバーワン」と優劣をつけることはないから、ひとりひとりの素晴らしい個性をお釈迦さまは「オンリーワン」と見抜いてくださったのかもしれないね。


阿弥|他にはどんな人がいたんですか?

先生|次の【摩訶目犍連(まかもっけんれん)も十大弟子のひとりとして有名だよ。
   「目連(もくれん)」という呼び名の方が知られているかもしれないね。

阿弥|その人も「○○第一」があるんですか?

先生|「神通第一」だよ。

阿弥|神通?

先生|神通力のことで、自由に飛んで空間を移動できる「神足通(じんそくつう)」や、すべての世界を見渡すことができる「天眼通(てんげんつう)」といった能力のことだよ。


阿弥|凄い! 超能力じゃないですか!

先生|ある意味では超能力のようだけど、煩悩を超えた智慧を具(そな)えた方々の振るまいが私たちのような凡夫から見ると「超能力」のように見えるだけじゃないかな。

阿弥|それくらい凄い人だったということなんですね。

先生|餓鬼道(がきどう)の苦しみに堕ちた母親を救い出そうとした目連のエピソードは、夏のお盆の由来にもなっているよ。


阿弥|へぇ~、お盆はお釈迦さまの弟子のエピソードが起源なんですね。

先生|仏教教団を統率していた①舎利弗と②目連に続いて──

③摩訶迦葉(まかかしょう)・・・頭陀(ずだ)第一。お釈迦さまの入滅後、経典の編纂を指揮した。
④摩訶迦旃延(まかかせんえん)・・・論議第一。
⑤摩訶倶絺羅(まかくちら)・・・四弁第一。舎利弗の伯父。
⑥離婆多(りはた)・・・無倒乱第一。舎利弗の末の弟。
周利槃陀迦(しゅりはんだが)・・・義持第一。
⑧難陀(なんだ)・・・儀容第一。お釈迦さまの異母弟。
⑨阿難陀(あなんだ)・・・多聞第一。お釈迦さまの従兄弟。兄は提婆達多(だいばだった)
⑩羅睺羅(らごら)・・・密行第一。お釈迦さまの息子。
⑪憍梵波提(きょうぼんはだい)・・・多天供養第一。
⑫賓頭盧頗羅堕(びんずるはらだ)・・・獅子吼第一。
⑬迦留陀夷(かるだい)・・・教化第一。
⑭摩訶劫賓那(まかこうひんな)・・・知星宿第一。
⑮薄拘羅(はくら)・・・長寿第一。
⑯阿楼㝹駄(あぬるだ)・・・天眼第一。阿難陀と同じく王族のひとり。

──これで16人かな。


阿弥|そんなに一度に全部を言われても……最初の方の人たちはもう忘れちゃいましたよ。

先生|ミョウガって食べ物は知ってる?


阿弥|冷奴やソーメンの薬味に使われる野菜ですよね。

先生|ミョウガは「食べると物忘れがひどくなる」って言われてるんだよ。※学術的な根拠はありません。

阿弥|弟子たちの名前を覚えられないのはミョウガのせいじゃないですよ!

先生|ミョウガは漢字でなんて書く?


阿弥|名前の名の上に草かんむりをつけたのと、荷物の荷で「茗荷(ミョウガ)」でしたっけ。

先生|実は7番目に出てきた周利槃陀迦という人が由来になっていてね。
   この人は自分の名前すら忘れてしまって、名前を書いた札を首からぶらさげていたほどだったんだ。
   周梨槃特の死後、墓から見慣れない草が生えていてそれがミョウガだったという俗説があるんだ。

阿弥|前を物として持っていた人に由来するんですね。
   でもそんな人がお釈迦さまの弟子になれるんですか?

先生|4ヶ月かかっても詩ひとつ覚えられなかったから、実のお兄さんに追い出されそうになってしまってね。


阿弥|その状態からどうやってお釈迦さまに認められたんですか?

先生|悩んでいる彼のところにやってきたお釈迦さまが「『塵を払い、垢を除く』と言いながら、掃除をしなさい」と教えたんだ。
  それで悟りを開かれたそうだよ。

阿弥|掃除? それくらい私もできますけど……。

先生|ところが周利槃陀伽は、「塵や垢というのは、自分の心の中の煩悩だ」ということに気付き、見事に煩悩を離れて悟りを開いたんだ。


阿弥|掃除で自分の煩悩をなくすなんて、お経に名前が出るような人は凄いですね~。

先生|愚鈍第一とも呼ばれた周梨槃特が、智慧第一の舎利弗と名前を連ねているのは面白いよね。
   他には迦留陀夷がいるのも注目して欲しいところかな。

阿弥|えっ、迦留陀夷さんも物覚えが悪かったですか?

先生|お釈迦さまの生まれたカピラ国の大臣の息子なんだけど、盗癖があって表舞台には立てなかったそうだよ。
   晩年に懺悔の生活をしてさとりをひらいたんだけどね。


阿弥|元泥棒!? そんな人もいるんですね……。

先生|それから舎利弗は病弱で短命だったんだけど、薄拘羅は160歳まで生きたというよ。

阿弥|160歳!? なんだかバラエティ豊かな席ですね。

先生|この経典に説かれているのは「すべての人を分け隔てなく摂め取ってくださる阿弥陀如来の救い」だからね。


阿弥|だから聞き手もいろんな人がいるんですね。

先生|すべての人が救われるということは、他でもない私も阿弥さんも救われるということだよ。
   ここがお経を読むときのポイントだから忘れないようにね。

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2018年11月04日