★正宗分ー依正段「極楽弥陀」①
その時、仏(ぶつ)、長老(ちょうろう)舎利弗(しゃりほつ)に告(つ)げたまはく、「これより西方(さいほう)に、十万億(じゅうまんおく)の仏土(ぶつど)を過ぎて世界あり、名づけて極楽(ごくらく)といふ。その土に仏まします、阿弥陀(あみだ)と号す。いま現にましまして法を説きたまふ。
そのときお釈迦さまは長老の舎利弗に仰せになりました。「ここから西の方へ十万億もの仏さまがたの国々を過ぎたところに、極楽と名付けられた世界があります。そこには阿弥陀仏と申し上げる仏さまがおられて、今現に教えを説いておいでになります。
先生|序分に続いて、今回からいよいよ経典のメインとなる正宗分(しょうしゅうぶん)に入ります。
阿弥|ついにお釈迦さまの説法が始まるんですね!
先生|冒頭の【その時、仏、長老舎利弗に告げたまはく】は説明書きで、あとはすべてお釈迦さまの言葉で始終しているんだ。
この正宗分は大きく分けると
①依正段(えしょうだん|極楽依正分)
②因果段(いんがだん|念仏往生分)
③証誠段(しょうじょうだん|証誠勧信分)
の3段から構成されているよ。
阿弥|今から読むのが依正段ですね。
先生|依正段は、極楽世界を「場所としての世界(器世間)」の国土・環境で示した依報(えほう)と、そこに住んでいる阿弥陀如来や仏弟子・菩薩を「生ける者の世界(衆生世間)」の主体で示した正報(しょうぼう)の「依正二報(えしょうにほう)」が説かれているんだ。
阿弥|この数行に全部が書いてあるんですか?
先生|「略讃(りゃくさん)」といって、最初に依正二報をまとめて説いてくださった部分を今から読むよ。
このあとから「広讃(こうさん)」と、さらに詳しい内容へ続くよ。
阿弥|ここではそれぞれどの部分が仏さま・菩薩さま・浄土にあたるんですか?
先生|【これより西方に、十万億の仏土を過ぎて世界あり、名づけて極楽といふ】という部分が浄土の様子だね。
阿弥|じゃあ次の【その土に仏まします、阿弥陀と号す】が仏さまの話ですね。
先生|そして【いま現にましまして法を説きたまふ】とあるのが菩薩のことだよ。
阿弥|えっ、その部分に菩薩さまのことは何も書いてありませんけど……?
先生|例えば──私が阿弥さんとこうして話すことができているのは、語り手である私がいて、聞き手である阿弥さんがいて、場所である部屋があるからだよね。
阿弥|はい、そうですね。
先生|【いま現にましまして法を説きたまふ】と浄土(場所)で阿弥陀如来(語り手)が説法している様子が描かれていると言うことは、そこには必ず聞き手である菩薩がいらっしゃることを教えてくださっているんだよ。
阿弥|あ、直接は書いてないだけなんですか。
先生|ちなみに後半には聞き手だけが書かれていて、阿弥陀如来が説法しているすがたの述べられていない文が出てくるけど──
阿弥|阿弥陀如来の説法の様子は省略されているんですね!
先生|そういうこと。
阿弥|でもお釈迦さまの説法の中で「阿弥陀如来がいま説法している」って、劇中劇みたいでなんだかややこしい……。
先生|インドでお釈迦さまが『阿弥陀経』を説法していた2500年前のことを【今現在】と言っているわけじゃないよ。
阿弥|じゃあ「いま」っていつなんですか?
先生|これも「時成就」と同じく、今ここの私に説いてくださっていると聞いていく話なんだ。
阿弥|すると、いまここの私に阿弥陀如来は具体的に何を説いてくださっているんですか?
先生|『阿弥陀経』にはお釈迦さまからの説明は直接ないんだけど、さまざまな先輩学僧によると「名号法(みょうごうほう)」を説いているとされているよ。
阿弥|「名号法」? それはどんな説法ですか?
先生|「南無阿弥陀仏(なもあみだぶつ)の名号によってあなたを救う」という説法だよ。
詳しくは読み進めていきながら、お経の言葉に聞かせていただきましょう。