法の道

勧学寮真宗講座の特別講義で淺田正博(恵真)和上のお話を聞きました。


淺田和上は浄土真宗の僧侶ですが、天台を専門で研究されています。
比叡山延暦寺にある叡山学園の講師を務めるなど、仏教学の権威として宗門の内外から尊敬を集める学僧です。


今回は源信和尚(げんしんかしょう)についての講義。『恵心僧都絵詞伝(えしんぞうずえことばでん)』に伝えられているエピソードをご紹介くださいました。


京都・平等院で源信和尚が説法していたときの話です。


マイクなどの音響がなかった当時は、高座に座って説法をしました。

そのとき、戸が開いていたこともあり、説法をしている和尚のところに1枚の落ち葉が風に運ばれてきたといいます。
その落ち葉には歌(和歌)が下の句だけ書かれていました。

極楽へゆく 船のたよりに

「なかなか面白い歌ですね。せっかくですので、誰かこの歌に上の句をつけてくれませんか?」

和尚が聴衆に提案したものの、誰からも返答がありません。
そこで、源信和尚は自分で上の句をつけることにしました。

(のり)の道 知る人あらば 渡すべし
極楽へゆく 船のたよりに

「仏法の道を理解する人があれば、仏さまのはたらきという船にのって極楽へ渡っていくでしょう」。
即興でありがたい歌を完成させた源信和尚に対して聴衆たちは「さすが源信さま!」と喜び、尊敬の眼差しを向けました。


法座が終わって聴衆が満足して帰るなか、最後まで残っていた老婆がひとり。

「先ほど源信さまは『法の道 知る人あらば 渡すべし』と詠っていましたが、私のように仏法の真髄を理解できない凡夫は極楽へ渡していただけないのでしょうか」

涙ながらに訴えてくる老婆の言葉を聞いて、源信和尚は「しまった!」と思ったことでしょう。改めて次のように詠い直しました。

法の道 知るも知らぬも 渡すべし
極楽へゆく 船のたよりに

「仏法の道を理解できる人も理解できない人も、仏さまのはたらきという船にのって極楽へ渡っていくでしょう」。


和尚の歌を聞いた老婆は「そうでしたか。私もお浄土へ参らせていただくことができるのですね。安心しました」と喜ぶやいなや、「我はこれ西方浄土の教主なり」と言い出すと、突然まばゆいばかりの光を放って、阿弥陀如来に姿を変えました。そうして紫雲をたなびかせ、西の空へ飛び去っていかれたといいます。


余談ですが、このお話が平等院を舞台としているのは理由があります。
平等院の開基である藤原頼通の父親である藤原道長は、当時ベストセラーであった『往生要集』を読んで極楽浄土への往生を願っていたそうです。


そうした影響もあったのか、平等院は御本尊である阿弥陀如来をはじめとして、『往生要集』の記述を参考に建築されていると教えていただきました。

合掌

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2017年12月07日