『阿弥陀経』を読む21

★正宗分ー依正段「七宝蓮池」③

また舎利弗、極楽国土には七宝(しっぽう)の池あり。八功徳水(はっくどくすい)そのなかに充満(じゅうまん)せり。池の底にはもつぱら金(こがね)の沙(いさご)をもつて地(じ)に布(し)けり。四辺の階道(かいどう)は、金(こん)・銀(ごん)・瑠(るり)・玻璃(はり)合成(ごうじょう)せり。上に楼閣(ろうかく)あり。また金・銀・瑠璃・玻璃・硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)・碼(めのう)をもつて、これを厳飾(ごんじき)す。池のなかの蓮華は、大きさ車輪のごとし。青色(しょうしき)には青光(しょうこう)、黄色(おうしき)には黄光(おうこう)、赤色(しゃくしき)には赤光(しゃっこう)、白色(びゃくしき)には白光(びゃっこう)ありて、微妙(みみょう)香潔(こうけつ)なり。
また舎利弗よ、極楽世界には七つの宝でできた池があって、不可思議な力を持った水がなみなみとたたえられています。池の底には一面に黄金の砂が敷き詰められ、また四方には金・銀・瑠璃・水晶でできた階段があります。岸の上には楼閣(背の高い重層の建物)があって、それもまた金・銀・瑠璃・水晶・硨磲(白珊瑚)・赤真珠・碼碯で美しく飾られています。また池の中には車輪のように大きな蓮の花が咲いていて、青い花は青い光を、黄色い花は黄色い光を、赤い花は赤い光を、白い花は白い光を放ち、いずれも美しく、その香りは気高く清らかです。

先生|今回は極楽の池に満ち満ちている水の話をしようか。


阿弥|池の水のことまで説かれているんですか?

先生|【八功徳水(はっくどくすい)そのなかに充満(じゅうまん)せり】とあるね。

阿弥|ハックドクスイ?

先生|8種類の勝れた特質や素晴らしい効き目がある不思議な水だよ。


阿弥|へぇ、どんな力があるんですか?

先生|ここには詳しく書いていないけど、初期の仏教経典(阿含経『起世経』など)や善導大師の解説、鳩摩羅什(くまらじゅう)以外の人が翻訳した『阿弥陀経』が参考になるね。

阿弥|『阿弥陀経』って他にもあるんですか?

先生|いま読んでいる『阿弥陀経』は、サンスクリット(古代インド)語で書かれた原典を、鳩摩羅什が中国語で翻訳したものであることは最初に確認したよね?

阿弥|はい。

先生|実は鳩摩羅什ではなく、玄奘(げんじょう)が翻訳したものも現存しているんだ。


阿弥|玄奘? 『西遊記』の三蔵法師のモデルの人ですか?

先生|そうそう。鳩摩羅什が翻訳したものを『阿弥陀経』、玄奘が翻訳したものを『称讃浄土仏摂受経(しょうさんじょうどぶつしょうじゅきょう)というんだ。

阿弥|タイトルがまったく違いますね。

先生|玄奘はその経題が内容にピッタリだと判断したんだろうね。


阿弥|そっちに「八功徳水」が詳しくあるんですか?

先生|次のように書かれてあるよ。

①澄浄(ちょうじょう)・・・澄み切っていて、底まで明らかに見える
②清冷(しょうれい)・・・清くて冷たい
③甘美(かんび)・・・甘くて美味しい
④軽軟(きょうなん)・・・軽くて軟(やわ)らかい
⑤潤沢(じゅんたく)・・・色艶があって、よく潤す
⑥安和(あんわ)・・・身にも心にも心地が良い
⑦飲む時飢渇(きかつ)等の無量の過患(かげん)を除く・・・飲むと飢えや病気をいやす
⑧飲み已(おわ)りて定(さだ)んで能(よ)く諸根(しょこん)四大(しだい)を長養(ちょうよう)し種々の殊勝の善根を増益(ぞうやく)・・・飲むと心身を健やかに育てる


阿弥|……思ったよりも普通の内容ですね。

先生|そう?

阿弥|だって、私が普段から飲んでいる水も澄み切って底が見えますし、冷たくて美味しいですよ。

先生|そりゃそうだよ。「普通の水」も「八功徳水」も同じ水だからね。


阿弥|えっ、どういうことですか?

先生|私たちは水を見ても何も感じないけど、仏さまは「8つの功徳がある素晴らしい水だ」とご覧になるんだよ。

阿弥|同じ水を見ているのに感じ方が違うんですか?

先生|今日の朝、起きてから顔洗った?


阿弥|もちろん!

先生|その時に蛇口から流れてきた水に何か感じた?

阿弥|いえ、別に何も感じませんでしたけど……。

先生|どうして?

阿弥|だって毎朝のことですし。

先生|その水を「素晴らしいはたらきがある」と仏さまはご覧になるんだよ。


阿弥|普通の水でも、仏さまからすると「八功徳水」なんですね。

先生|仏さまが見ている世界は「すべてを宝として受け止めていける世界」と前に話したけど、一滴の水にさえも無限の素晴らしさや尊さを感じられる心を持っているのが仏さまなんだ。

阿弥|そう考えたら尊い恵みを受けていても、気付くことって難しいですね。

先生|それを気付かせてくださるのも、仏さまのはたらきだよ。


阿弥|まさか池の水にそんな秘密があったとは……。


先生|ちなみに浄土真宗のお仏壇やお墓は、コップや湯飲みに水を入れてお供えすることはしないんだよ。

阿弥|えっ、なんでですか? 亡くなった人が喉を乾かないようした方がいいんじゃないですか?

先生|極楽に「八功徳水」があるから大丈夫!


阿弥|極楽に水があるから、私たちがお供えする必要はないんですね。


先生|ただ、ちょっと違った形で水をお供えはするんだ。
   お仏壇の小さな花瓶(華瓶|けびょう)に緑色の葉っぱが入ってるの見たことある?

阿弥|あるような、ないような……。

先生|実はあれが水のお供えなんだ。


阿弥|故人に花瓶の水を飲ませるんですか? バチ当たりですよ。

先生|飲ませるためではなくて、香木を差して香水をお供えしているんだよ。

阿弥|香水を? どうしてですか?

先生|インドであった習慣に倣っているようだね。


阿弥|じゃあブランド物の香水をお供えしてもいいんですね。

先生|いやいや……インドでは青蓮華をお供えしていたから、それによく似た香木である(しきみ)を用いるのが一応のルールになっているよ。

阿弥|へぇ、お供え物にも細かい取り決めがあるんですね。

先生|意義を理解した上からは、それぞれの精一杯でつとめればいいと思うけどね。あくまで仏さまに対する報恩感謝の行いだから。

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2019年01月20日