とある家の娘さんが、お菓子をテーブルの上に置いたまま出かけていきました。
入れ違いで帰ってきたお母さんは、テーブルの上のお菓子を見つけると「あら、おいしそう」と食べてしまいます。
しばらくして帰宅した娘さんは、テーブルの上にお菓子がないことに気づいてお母さんに訊ねました。
「お母さん、ここに置いておいたお菓子は?」
「おいしそうだったから、さっき食べたわよ」
「どうして勝手に食べるの!楽しみにしていたのに!」
娘さんが怒り出しますが、お母さんも負けていません。
「それなら自分の部屋に置いておきなさいよ。テーブルに置いておくから悪いのよ」
その言葉を聞いた娘さんは、ますます頭にきました。
「人のものを勝手に食べるのは犯罪と一緒よ!」
お互いに相手が悪いと主張しあい、口論はエスカレートする一方です。
世の中の人と人との争いごとの多くは、このように双方が「悪いのは相手だ」と非難しあうことで起こります。
相手を悪と考える背景には、言うまでもなく「私が正しい」「自分は間違っていない」とする心理がはたらいています。
ですから、相手の非を責めても、自分の非を認めようとはしません。その結果、争いはますます拡大していくことになります。
世の中は、人と人との関係性によって成り立っています。
全員が全員、自分の正当性を押しつけあっていたのでは、諍いは絶えません。
「私は正しい」との思い込みは、自分にとって都合のよい、独り善がりの判断である場合も少なくないのではないでしょうか。
「悪いのは相手だ。自分は正しい」と主張するばかりではなく、「自分にもいたらないところがあるのでは」と、心を開いて相手と向き合ってみる。
すると、トラブルが起きにくく、大きな揉めごとに発展する危険も回避できるはずです。
〈参考『人生は価値ある一瞬』より〉