東京都千代田区には「武蔵野大学附属千代田高等学院・千代田女学園中学校」という学校があります。
本校は、浄土真宗本願寺派の開明的僧侶であった島地黙雷が、仏教・浄土真宗の教えを建学の精神として創立し、「叡知・温情・真実・健康・謙虚」という〈学園のこころ〉のもと、宗教教育と国際理解教育を柱に発展してきました。
個性を大切にし、互いを認め合い、共に生きるという”心の教育”こそ、130年の伝統を誇る学校教育の軸です。
宗教、礼儀作法、福祉、ボランティア活動などを通して思いやりの心を育み、自分を見つめ、生かされて生きる人物を育成しています。
また、島地黙雷は明治期において国際理解教育にも尽力しました。その意志が世界市民の育成を目標とする国際バカロレアの導入につながっています。
私の身内も卒業している浄土真宗の宗門校です。
仏教行事も多く開催されています。
本日の「涅槃会」の法話講師としてご縁をいただきました。
仏前への献灯・献華から始まり、厳かな儀式がつとまります。
これまでも何度か宗門関係の学校には出向しているのですが、以前こんなことがありました。
そのときは初めて学生の前で法話をするということで、何を話すのか悩んだ結果、浄土真宗の根本である「仏さまの慈悲」についてお話をしました。
ところが、終わってから「『仏さまが見捨てない』という話ではなく、もっと生徒の明るい将来に繋がるような話だったら嬉しかったです」と先生から厳しいご講評を賜りました。
正直、かなり落ち込んでしまいました。
それから数日後、お寺に私宛の一通の手紙が届きます。
まったく知らない女性からの手紙です。
封を開けてみると、差出人は私が数日前に出向した学校のとある生徒でした。
詳しくは控えますが、手紙にはさまざまな境遇の中で生きづらさを抱えていることや、「仏さまの慈悲をありがたく思いました」といった内容が綴られていました。
摂取不捨の阿弥陀如来のご法義は、「非常の言は常人の耳に入らず」「難信之法」といわれるように、普通に聞いてもよくわかりません。
ですから、もっと現代人が理解のしやすい「道徳的な話」や「理屈っぽい話」に寄せるべきだ──と考える人もいるようです。
しかし、私はそうは思いません。
「学校で1000人の前で話したときに、人生を順調に生きている999人の生徒や先生に届かなかったとしても、いま本当に辛さを抱えている1人に響くものがあればそれでいい」
という結論に至った出来事でした。
もちろん、伝え方に工夫は必要ですが、浄土真宗の救いは愚者・弱者の救いです。