私たちは、生まれたときから常に「進歩」することを生活の原理としています。
学校では、多くの知識を増やして成績上位をめざし、会社に勤めると、業績を上げてより高い収入と地位を目標とします。
近代の日本人を導いてきたのは、この「進歩」の思想で、確かに優れた点もたくさんありました。
しかし他方では、受験戦争など激しい競争社会を生み出してきたのも事実です。
こうした学歴や出世、収入などは、他人と比較して外から見える「進歩」だとすれば、同じ「進歩」でも、外から見えない「進歩」があります。
自分の内面における「こころの進歩」です。
「こころの進歩」とは、ほかの人と比べてよりよい人間になることを言うのではありません。
自分が「いかにいたらない人間であるか」「いかに自己中心的な人間であるか」に気づきはじめることを言います。
そこに気づけば、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という箴言にもあるとおり、おのずから他人に対して謙虚になります。
とはいえ、人間はなかなか自分をありのままに見ることができません。
ともすると、よい点は過大に認め、悪い点は割り引いて見るなど、自分に甘く、他人に厳しくなりがちです。
私たちは、誰もが自分の本当の姿を無意識に見ないようにして生きているものです。
発展めざましい「進歩」の時代であるからこそ、「こころの進歩」を意識して生きる必要があるでしょう。
〈参考『人生は価値ある一瞬』より〉