仏法を伝える立場にあるのだから「仏法」はもちろんのこと、「伝え方」も学ぶべきではないか──そんなことを広島で先輩と話していました。
『伝え方が9割』というタイトルの本を勧められました。
コピーライターの筆者が発見した伝え方の技術が分かりやすくまとめられています。
そのうちのひとつとして、強い言葉を生み出すときには「ギャップ」が必要であると書かれています。
例えば──、
「これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ」
人びとを熱狂させたオバマ前大統領の就任時の言葉です。
彼がもともと言いたかったことは何でしょう?
これは、あなたの勝利だ。
そう言いたいのです。選挙を戦ってきた人びとへの称賛です。でも彼は、あえて「あなた」の反対側である「私」というコトバをその前に使ってギャップをつくりだしたのです。
これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ。
このコトバこそが、人びとの感動を最高潮にしたものでした。演説を聞いて、涙を流す人たちもいました。ですが実は、オバマ氏がその場でこのコトバを思いついたのではありません。
オバマ氏にはジョン・ファブローという演説ライターがいます。オバマ氏の言いたい趣旨を、より感動的に伝えるコトバにつくりかえたのです。この感動はつくりだされたものです。
私はオバマ氏の演説の批判をしているわけではありません。むしろその逆です。演説に私も感動しました。同時に「上手だな、やられた!」とも思いました。
私は政治について、知見があるわけではありません。ですがコトバの専門家として、日本の政治に圧倒的に足りないのは、「政策」ではなく「感動」だと思っています。人は規則では動きません。人を動かすのは「感動」です。
感動を作るには、ただ伝えたいことをそのまま言い放つのではなく、伝えたい内容にギャップをつくることです。
天親菩薩の『浄土論』に、
大乗善根界 等無譏嫌名 女人及根欠 二乗種不生
とあります。平たくいえば、阿弥陀如来の極楽浄土とは、あらゆる譏(そし)りや差別がない平等一味の世界ということです。
この偈文を曇鸞大師は『往生論註』において、「私たちの住んでいる世界にはあらゆる譏りや差別があるから、仏さまの世界は平等一味なのです」と解説くださっています。
「仏さまの世界は平等一味である」と説明するところを、「私たちの住んでいる世界にはあらゆる譏りや差別があるから、仏さまの世界は平等一味なのです」と反対の言葉を用いることで「ギャップ」が生み出されています。
私たちの世界は苦しみ、堪え忍んでいかねばならない娑婆世界であるからこそ、仏さまは苦しみのない世界をご用意くださったのです。
あくまでも『浄土論』の註釈書ではありますが、曇鸞大師ほどの高僧ですから、自然と人に伝えるための技術を用いていたのかも知れません。
もしくは、真理そのものが私たちに届くように訴えかけていると味わうこともできるでしょう。
「お経には何が説かれているのか」を話すときに、「人間は孤独であるということと、あなたは独りではないということが説かれている」と話し始めることがあります。
割と気に入っているフレーズですが、これも「ギャップ」という技術が使われていることが改めて分かりました。
合掌