「性論」について調べていると、性善説でも性悪説でもない性弱説という言葉を見つけました。
出典は分かりませんが、「人間とは弱いものである」という京セラの創業者である稲盛和夫氏の言葉が元になっているようです。
例えば、誰かを傷つけてしまったときに
「人間の本性は善だからそういった悪をしないように努めましょう」
「人間は本性は悪だからそういったこともあるけど今後は善に努めましょう」
といった性善説・性悪説の立場ではなく、
「誰かを傷つけてしまうのは弱さからくるものだ」
と、まずは人間は弱い生き物であることを認める営みが性弱説の立場でしょう。
稲盛氏の著書によると、これは「傷つけないように強い人間になれ」という話ではなく「人間は弱い生き物で人を傷つけてしまうから、それをしないような仕組みや環境を整えよう」とあります。
ある投稿で
「お金を盗む人が悪いのではなく、お金を盗めてしまう状況がよくない。だからこそ、お金を管理するときは1人ではなく3人以上が携わるような仕組みとした」
という稲盛氏の言葉が紹介されていました。
それを受けて
「マクドナルドの制服にはポケットが付いていない」
という話題が出ました。
制服にポケットがないということは、レジのお金をこっそり持ち帰ることはできません。
また、スマートフォンを持ち込んでイタズラ動画を撮影するのも難しいでしょう。
前述した稲盛氏の言葉もマクドナルドの制服も「働いている人間を信用していない冷たい取り組み」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、その内実には「人間は縁に触れれば悪事に手を染めてしまう弱い生き物である」ということを認めた上で、働く人を守るための思いやりや優しさがあるのはないでしょうか。
稲盛氏といえば、65歳の時に臨済宗妙心寺派で得度をしたエピソードが知られます。
少し調べてみると、次のようなインタビューが見つかりました。
――最初に仏の教えに接するきっかけとなったのは?
故郷の鹿児島では、江戸時代に薩摩藩によって一向宗が弾圧されたとき、「隠れ念仏」として信仰を守ってきました。私が小さい頃は、まだその習わしが残っており、4歳か5歳の頃、父に隠れ念仏へ連れていかれたんです。
――どんな経験でしたか?
お坊さんの後ろで正座をしてお経を聞いていました。終わってから線香をあげ、お坊さんに、「これからは、仏様を『なんまん、なんまん、ありがとう』と言って拝みなさい」と言われました。仏様に感謝して毎日生きなさいということだったのですが、この言葉は、人間が生きていくには、感謝の気持ちが大事であると認識させられるきっかけにもなりました。今は自然と、すべてに心からの感謝の念がわいてきます。
何冊か本を読んでみたところ、稲盛氏自身は伝統仏教に限らず幅広く宗教に触れていて、宗教性が豊かな方のようです。