泣きたいときに 泣けないことが 一番悲しい

「このごろ、涙もろくなってね」と言うと、友人が「涙が流れることはいいことだよ。それは感情が豊かな証拠だから」と教えてくれました。

ひと口に「涙」といっても、いろいろあります。私たちの目の乾燥を防ぐための涙や、目に入ったゴミを押し流そうとして出る涙などもそのひとつです。
これらの涙は、身体を保護しようとする生理的な働きです。感情とはあまり関係ありません。

感情を伴った涙も、悲しいときに流れる涙、怒りに震えるときに出る涙などいろいろあります。
実は生理的に出る涙と、感情を伴った涙は成分が少し違うそうです。

涙を詳しく調べてみると、感情によって流れる涙には、癒やしの成分も一緒に分泌されているのだそうです。
確かに悲しみの涙も、怒りの涙も、悔し涙も、涙を流したあとは多少なりとも気分がすっきりします。

かつて自分もそうだったことを忘れてしまっていますが、特に大人は「赤ん坊や子どもにはストレスがない」と考えてしまいがちです。
しかし、そうではありません。赤ん坊もストレスを感じて泣くことがあります。
そのとき、その涙を無理に押しとどめたり、放っておくと、その後の成長に悪影響を及ぼすことがあるといいます。安心して泣かせてあげるということが、赤ん坊には一番良いのです。

大人たちもまた「泣くことが許される場所」こそが、本当に安心できる場所なのではないでしょうか。

浄土真宗の仏さまは、阿弥陀如来という仏さまです。
「あなたの悲しみは私の悲しみです。あなたを決してひとりぼっちにすることはありません」とおっしゃってくださる仏さまです。
「愚痴をこぼし、涙を流す私」「怒りに苛まれ涙を流す私」「もはや涙も流れず疲れ果てて立ち尽くす私」、そうした私をそのままじっと抱きしめてくださる仏さまです。

その仏さまの温かい慈悲のこころが、「南無阿弥陀仏」の声となって私たちのうえにはたらいてくださっています。
「安心して泣いていける」、そんな豊かないのちの居場所が与えられるのが、浄土真宗の人生です。

参考〈『築地本願寺新報』〉

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2021年02月01日