おかげさまで今年度も内藤知康和上による『教行信証』勉強会を開催することとなりました。
現在は「行巻」の他力釈から曇鸞大師(どんらんだいし)の『往生論註(おうじょうろんちゅう)』という書物が引用されている部分を読み進めています。
『往生論註』とは、天親菩薩(てんじんぼさつ)の『浄土論(往生論)』の註釈書です。


親鸞聖人が『往生論註』でもっとも重視したのが「覈求其本(かくぐごほん)釈」です。「覈求其本」を書き下すと、「覈(まこと)に其の本を求むれば」となります。
その内容を簡単に説明すると、『浄土論』には「ゆっくりとさとりをひらく」という文と、「速やかにさとりをひらく」という文があるが、これはいったいどういうことか。実はその大本となるのは(覈に其の本を求むれば)、阿弥陀仏のはたらきである──ここに他力の本義が示されていると宗祖はご覧になりました。

ところで、ここで用いられる「覈」は、私たちに馴染みがない難しい漢字です。この漢字にまつわる次のようなエピソードを内藤和上がご紹介くださいました。

以前、中央仏教学院の学院長をしていた土井忠雄先生がこのような経験をされたと、灘本愛慈和上からお聞きしました。

土井先生は徴兵を受けて戦争で中国へ赴いたといいます。そこで現地の人々が書いた文章を扱っていたとき、日本軍の中で誰にも読めない字がありました。実はその字がこの「覈」だったのです。
真宗学者であった土井先生だけが「これは『まこと』と読むんですよ」と解読することができました。
すると、その場にいた人々から「おぉ~!」と予想以上に感心されたそうです。それ以降、土井先生は周囲から一目置かれ、その後は諜報部に所属することになりました。

「諜報部というのはスパイです。スパイは頭が良い人間でなくては務まりません。土井先生は相当に頭が良かったということがわかるエピソードです」と、灘本先生はおっしゃっていました。

合掌

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2018年05月31日