年をとるから老いるのではない 成長をやめるから老いるのである

お釈迦さまがまだ出家する前、インドのある小国の王子さまだったころの話です。城の門を出たときに出会った老人が、老衰するほかの老人を見て「自分もああなるのか……」と考え込んでは悩み、恥じ、嫌悪している姿を目にします。

お釈迦さまは「自分もまた老いゆく身であり、老いるのを免れえないのに、他人の老衰を見て同じように悩み、恥じ、嫌悪するであろう」と考え、「老い」を人間なら誰もが持つ根本的な四つの苦しみ(四苦/生苦・老苦・病苦・死苦)の一つに挙げられました。

確かに年を取ると、体力や記憶力の衰えが目立ち、今までできていたことがだんだんとできなくなっていくもどかしさがあります。しかし老いることは、何もマイナスばかりではありません。プラス面もあります。

一つめは「大事なものを一つひとつ捨てていくことで、世の中に対して背負っていた荷物がそれだけ軽くなっていくこと」です。古希を前に引退したとある先輩が「忙しさこそあまり変わらないものの、背負っていた荷物の多くを下ろした感じがして、気持ちが軽くなった」と話していました。

二つめは「年を取ることによって社会や会社の組織から離れ、自由が得られること」です。朝、何時に起きなければならないなど生活時間を守らなくてもよくなります。時間だけでなく、成果や数字などによって評価されることからも解放され、組織に縛られる不自由さがなくなるため、自己を見つめることができるようになります。

三つめは「いのちについて身近に意識するようになること」です。親、祖父母、親しい友だちなどが先に逝き、今は一応健康だけれども、遠からず死ぬだろうということは嫌でも考えさせられます。私のいのちはどこから伝わってきたのか、死んだらどうなるのかなどを意識すると、若いときには思いもしなかった先祖のことを考えたり、いのちの有限性やつながりをも感じるようになります。

年を取ることは避けられません。そうである以上、悪い面ばかりではなく、よい面にも目を向けて残りの人生を充実させたいものです。

先月の言葉

翌月の言葉

今月の言葉一覧

2022年12月01日