これまで見てきた『往生要集』の地獄の情景は、源信和尚が独自に考えたものではありません。さまざまな経典や論に拠っています。
特に中心となるのが『正法念処経(しょうぼうねんじょきょう)』です。
その一節には「心業画師画文」とあります。地獄をはじめとする六道の世界は、私たちの「心」という画家によって描かれる絵や文のようなものだといいます。
また、真宗大谷派の学僧・金子大榮(かねこだいえい)師は、「仏教の思想からいえば、地獄はつくらなければありません」「地獄はつくりつつあるもの」と述べています。
地獄とは「ある」「ない」で語るのではなく、「今まさに自らつくりだしている」と受け取るべき世界です。
どこかに実在するものであれば避けることもできますが、私が自らつくり出している世界となれば逃げることはできません。
病人がいるから病院ができたように、罪人がいるから地獄が生まれます。
だからこそ「地獄に堕ちるような言動は慎むべきである」と誡める世界であると受け止めることもできるでしょう。
合掌