地獄先生23

現代人によく見られる「地獄なんて、誰も行って見てきた人はいない。おとぎ話でしょう」という考え方は、実は約2500年前のお釈迦さまの時代からありました。


浄土真宗の根本聖典である『教行信証(きょうぎょうしんしょう)』に引用されている『涅槃経(ねはんぎょう)』には、「自分は地獄に堕ちるのではないか」と恐怖する阿闍世(あじゃせ)王に対して、月称(がっしょう)という家臣が「地獄なんか実際に行って見てきた人はいませんよ」と諭す場面が描かれています。現代とまったく同じ理屈です。


ところが、阿闍世王の不安は晴れることはなく、最終的にはお釈迦さまの元へ訪れることになります。


「悪いことをしたら地獄に堕ちる」という言葉は死語となりつつあります。
しかし、死後の地獄が失われた結果、私たちが生きている世界に地獄が現れているのかもしれません。
「こんなことをしたら地獄に堕ちるかもしれない」と考える人は心にブレーキを持つことができます。


ところが、「死んだら終わり」とブレーキがなくなってしまえば、人間を止めるものはなくなってしまいます。
「死んだら無となるから何をしても構わない」と考える人が増えることは恐ろしいです。


もちろん、地獄を聞き入れても弱く愚かな人間は、なかなか自分の言動を律することはできません。
生き物を殺したり、嘘をついたり、人を傷つけたり、人間の生き方はどうやっても地獄へ向いています。


そうした私こそが阿弥陀如来の救いの目当てなのです。「地獄」や「救い」の教説は、「いつか」「どこか」「誰か」にではなく、どこまでも「今」「ここ」「私」に向けられています。

合掌

【「地獄先生1~23」参考文献】
『浄土真宗聖典全書(一)(二)』本願寺出版社
『註釈版聖典』本願寺出版社
『註釈版聖典 七祖版』本願寺出版社
『季刊せいてん No.119』本願寺出版社
石田瑞麿著『日本人と地獄』講談社学術文庫
梅原猛『地獄の思想―日本精神の一系譜』中公文庫
梯信暁訳註『新訳 往生要集』法藏館
加須屋誠『地獄めぐり』講談社現代新書
山本聡美『闇の日本美術』ちくま新書
田中久美子『地獄百景』ベスト新書
小栗栖健治『図説 地獄絵の世界』河出書房新社
『特別展 地獄絵ワンダーランド』NHKプロモーション

前の投稿

次の投稿

ブログ一覧

2019年06月24日