大焦熱地獄の下には、最後の地獄である「阿鼻(あび)地獄」があります。
「阿鼻」はサンスクリット語「Avici(アヴィーチ)」の音写語です。「間断なく苦を受ける処」=「無間(むけん)」を意味します。
これまでの地獄の罪に加え、①五逆罪を造り、②因果の道理を否定し、③大乗仏教を誹謗し、④四重の戒めを破り、⑤不当に施物を受けた人が堕ちます。
無間地獄に堕ちてゆく罪人の詩が『往生要集』の最初に述べられています。
一切唯火炎。遍空無中間。四方及四維。地界無空處。一切地界處。惡人皆遍滿。我今無所歸。孤獨無同伴。在惡處闇中。入大火炎聚。我於虚空中。不見日月星。
「すべてが炎に包まれて、空いっぱいに隙間なく、四方八方、天も地も、みな赤々と燃えている。
地面はわずかの余地もなく、悪人ばかりが満ちている。身を寄せる場所も見つからず、頼れるものは誰もいない。
暗闇の中をただ独り、炎に向かって堕ちてゆく。虚空を眺めてみたけれど、日も月も星も出ていない」
罪人に対して、怒りをあらわにした獄卒が応えます。
或増劫或減劫。大火燒汝身。癡人已作惡。今何用生悔。非是天修羅健達婆龍鬼。業羂所繋縛。無人能救汝。如於大海中。唯取一掬水。此苦如一掬。後苦如大海。
「いついつまでも永遠に、猛火がお前を焼き尽くす。悪事を続けた愚か者、今さら悔いてももう遅い。
神が与える罰ではない。決して誰かのせいではない。自分の罪の報いであるから、他人が救うことはできない。
大海の水に手を入れて、両手いっぱいに掬ったならば、手元の水は今の苦しみ、大海の水は後の苦しみ」
叱り終わった罪人が獄卒に連れてこられたのは、阿鼻地獄まであと二万五千由旬の地点。
遥か下にある地獄から聞こえてくるのは、責め苦に遭う罪人たちの泣き叫ぶ声です。10倍の恐怖に襲われ、もだえ苦しみ、次第に気を失って罪人は阿鼻地獄へと堕ちていきます。
頭を下に、足は上にして、逆さづりの状態で下へ下へと落下し続けること2000年……。
阿鼻地獄の広さは八万由旬四方で、これまでの地獄の512倍です。鉄の城壁と鉄の網が七重に取り巻いています。『阿弥陀経』に説かれている極楽浄土の荘厳に通じる描写です。
城の下には18の隔壁が内外を隔て、まわりは刀の林が取り囲んでいます。
城の四隅には銅でできた体長600km(四十由旬)の犬がいます。眼光は稲妻のように鋭く、牙は剣のように尖っていて、歯は刀の山、舌は剣山のようで、身体中の毛穴から激しい炎が噴き出し、煙は酷い悪臭を放ちます。
待ち構えている獄卒の数は18人。
頭は羅刹(らせつ|インドの神話・伝説の現れる鬼神の一種で、凶暴な破壊者・食人鬼)、口は夜叉(やしゃ|森に住む神霊。仏教に取り入れられて八部衆の一とされる)、64個の目から鉄球を発射します。
上に向いた牙は60km(四由旬)あり、牙の先からは炎が噴き出し、阿鼻地獄を埋め尽くします。
頭には8つの牛頭が付いていて、頭のひとつひとつから生えた18本の角から火を噴きます。
七重の城壁の内側には7本の鉄柱が立ち、その柱から噴水のように炎が上がり、阿鼻地獄に満ち満ちています。
合掌