過去の事実は変えられないが 過去の意味は変えられる

あなたは今までの人生を振り返って「充実した良い人生だった」と思いますか。それとも「苦労が多く、あまり幸せとは言えない人生だった」と思いますか。

私たちは「過去」を振り返り「未来」を見つめながら「今」を生きています。そして過去を思い出して「あのときあんなこと言わなければ……」と後悔し、未来を思っては「もし病気をしたら……」と不安を抱えます。

しかしよく考えてみれば、過去も未来も私の心の中で描いている世界です。私が生きているのは「今」この瞬間しかありません。「今の自分」が作り上げているのが過去や未来を作り上げているのですから、今の自分が変われば過去も未来も変わるということです。

ある男性の話です。朝、子どもを自動車で幼稚園に送り届け、職場へと向かう途中のことでした。一時停止の標識がある丁字路で車を止め、再び走り出してしばらくすると、「前の車、止まりなさい」の声とサイレンの音が聞こえてきました。不思議に思って車を止めると警察官から「一時停止違反です」と告げられます。「いや、止まりました」と答えると「完全に停止していませんでしたよ」「そんな……止まりましたって!」。
何度か押し問答をしましたが、最終的には免許証を提示し、切符を切られ、7000円の罰金を納めたといいます。その日は怒りがおさまらず、「最悪の日だった」と話していました。

数日後、同じように子どもを自動車で幼稚園に送り届け、あの丁字路に差し掛かりました。もちろん、しっかりと一時停止をして左右の安全を確認します。先日の出来事の教訓です。
車を再び走らせようとしたその瞬間、歩道を走っていた自転車が、車の目の前を猛スピードで横切ってきました。間一髪、ブレーキが間に合いましたが、あと数センチのところで接触事故になっていました。「良かった」と思いつつ、手足が震えていたことが忘れられないといいます。

そのときから一時停止の白線の意味がよくわかったそうです。あの日、取り締まりを受けていなければ大きな事故を起こしていたかもしれないと思うと、その日のことが「最悪の日」から、意味のある「大切な日」に変わったというのです。

親鸞聖人は「本願力にあひぬれば むなしくすぐる人ぞなき」と教えてくださっています。過去の後悔に苛(さいな)まれて人生を諦めることはありません。
なぜなら過去の意味は、今からの出遇いによって大きく変えることができるからです。

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2025年05月01日