「人間は死んだら誰でも仏になる」と仏教では説きません。
この世での行いの良し悪しによって、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六つの世界を繰り返し巡ると考えます(六道輪廻)。
煩悩から解放され、この輪廻し続ける迷いの世界から脱すること(解脱)で仏となるのです。
特に悪業を重ねた人間が生まれる世界が「地獄」です。
「地下にある牢獄」を意味する古代インドのサンスクリット語「naraka(ナラカ)」が原語で、「那落迦」「奈落」と音写します。
科学の発達した現代において「地獄」の話を聞いても、「行ったことも見たこともない世界は昔の人が作った絵物語やおとぎ話だ」と感じる人が多いでしょう。
一方で、私たちは悲惨な状況を「地獄のようだ」と表現します。
他にも美術館では地獄絵を中心にした展示会が開かれ、
地獄に関連する漫画・アニメ作品も多くあります。
では、地獄とはどのような世界なのでしょうか。
〈photo by jinjahoncho〉
死後の世界を「黄泉」と捉えてきた日本人にとって、地獄をはじめとした六道の世界の定着にもっとも大きく寄与したのが源信和尚(げんしんかしょう)の『往生要集(おうじょうようしゅう)』です。
表題のとおり、極楽浄土への往生に関する文を経論釈から集め、往生のためには念仏が重要であることを明らかにしています。
〈photo by narahaku〉
当時から大きな注目を集め、現代まで多くの人たちに長く読み継がれている仏教書です。本書の冒頭「厭離穢土(えんりえど)」には、私たちが厭い離れていくべき六道の世界の筆頭として地獄の様子が書き記されています。
▲「地獄絵」(河鍋暁斎作)所蔵 / 大英博物館
『往生要集』全体から見れば、地獄に関する文はごくわずかです。しかし、そこに鮮明に描かれた責め苦に遭う罪人の姿は、読み手に強烈な印象を与えたことでしょう。
地獄は、大きく分けて「熱地獄」「寒地獄」「孤地獄」の3種類に分けられます。「寒地獄」の方が早く初期経典に登場していますが、「八熱地獄(八大地獄)」の方が有名です。
『往生要集』の記述も
①等活(とうかつ)地獄
②黒縄(こくじょう)地獄
③衆合(しゅごう)地獄
④叫喚(きょうかん)地獄
⑤大叫喚(だいきょうかん)地獄
⑥焦熱(しょうねつ)地獄
⑦大焦熱(だいしょうねつ)地獄
⑧阿鼻(あび)地獄
の「八熱地獄」です。次回から『往生要集』の記述に拠って内容を詳しくうかがいます。
合掌